機械学習を用いた、自動中割りや自動彩色の発表に寄せて
ここ数日で、アニメ業界での機械学習利用に関するニュースがいくつか流れてきました。
技術の進歩は、業界の発展に繋がるので、それぞれの技術的是非は兎も角として喜ばしいことだと思っています。
ただ、Twitterを見ていると、アニメ業界の方々から批判の声も多く見られました。
アニメ業界界隈からの批判の声について
散見されたのは、
- 賃金上げろ系 / 仕事奪うな系
- 嘘書くな系 (外注だからクオリティが悪い訳ではない、 製作会社ではない など)
- 人が育たなくなる系 (動画は原画の基礎になる / 仕上げの下積みが色彩に活きる など)
おおよそこれらの内容でした。(引用はしません)
機械学習をやっている知人、制作会社・製作会社に知人がいる身としては、辛いところです。
知人がいる程度なので、両方とも多少知っている程度であり、見当違いなこともあるとは思いますが、多少なりとも不幸なすれ違いがなくなる事を祈って、思うところを書きます。
賃金上げろ / 仕事奪うな系
毎度思うのですが、賃金はアニメ制作会社に交渉をしてください。そして、制作会社は製作会社に制作費用の交渉をしてください。
また、現在の仕事が自動化されることに対して、仕事がなくなるのを危惧するのはナンセンスです。
望ましいとされる、緩やかなインフレの状態において、自分が出せる価値(≒賃金)を上げていかなければ生活水準を維持できず、技術革新はそれを後押しする物だと認識しています。
もし簡単にAIに仕事が奪われるのであれば、AIがなくても価値の向上が伸び悩んでいる業務ではないでしょうか。
別にその業務がダメと言っている訳ではなく、実際、職人的な物も中にはあるでしょう。
アニメ業界で既に淘汰された「セル画職人」は、話を薄っすらと聞くだけでもまさに職人だと思います。ただ現実をみるに、悲しいことですが、それらの技術はアウトプットに本来必要でなかった物だったのではないでしょうか。
嘘書くな系
製作会社と制作会社の違いは、(自分も含め)オタクと業界人しか分からないものです。
ニュース記事は、マスコミが書いてるに過ぎないので、あまりカッカしないようにしましょう……自分もそうなので分かるのですが。
ちなみに、制作会社がフィルムの実制作を行う会社で、製作会社は出資や宣伝など、それ自体がなくてもフィルムは完成する部分を請け負っている会社を指します。
(株)アニプレックスや、(株)KADOKAWAは製作会社です。(共に子会社に制作会社を持っていますが)
製作と制作の違いはともかく、他に関しては中々話を聞ける人が身近にいないと知らない話だと思うので、確証のない話は書かないに越したことはないと思います。
なお、クオリティに関しては、作画崩壊のことを文脈的に指していたと思われますが、『
作画崩壊で有名なアニメ、あの“キャベツ”の真相がついに明かされる!』にあるように、スケジュールに端を発するケースを良く見ます。
人が育たなくなる系
まず、自動彩色に関して、「製作会社に何が分かるんだ!」というのを見ましたが、こちらの研究は制作会社である(株)オー・エル・エムの協力の元、研究されている物です。
『ディープラーニングを用いたアニメの自動彩色に産学の共同研究チームが挑戦。その展望と、産学連携の意義を語る』の記事が前述の記事よりも遥かに詳しく書かれています。
現状まだまだ実用に絶えない物であることは記事の通りですが、実用的な方向に研究は進められているようです。
さて、人が育たなくなるか、についてですが、私はそのようには思いません。
身近なところだと、プログラマーはコンピュータの仕組みを知らずとも現在、プログラムを書くことができます。
ただ、コンピュータの仕組みを知っていれば、高度に最適化されたプログラムを、遥かに早く作成することができるのは確かです。
コンピュータサイエンスを全く知らないプログラマーを見かけるようになりましたが、その分プログラマー人口が増えているのも確かです。
アニメは芸術の分野なので、全く同じではないと思いますが、それで余裕が生まれれば、その分を教育に回せるかもしれません。
結局のところ、育てる側次第だと思っています。別に数ヶ月従来のやり方で教育した後、ツールを使っても良いのです。
それと、AIについても大きく誤解されているように思います。AIと書くと、どうしても機械が脳を持つかのように感じますが、機械学習(Machine Learning)の方が狭義の呼び名であり、誤解を恐れずに書くと、「入力」に対応する「出力」を返す、その精度を上げていくものです。
実際にできるものは、Adobe Photoshopなどにある各種ツールレベルの物です。そのプログラムを人間が書いたか、人間が書いてないかの違いに過ぎません。
使う側が気にするべきは精度と、そのツールの是非だけのはずです。もっと前向きに「こういう機能じゃないと使えないよ」といった意見を出した方が、開発者の方々も嬉しいのではないでしょうか。
DeNAの自動中割りについて
さて、双方歩み寄って欲しいな、と思ったことを長々と書いました。
しかし、実のところDeNAの自動中割りの研究には私も色々と思うところがあり、建設的な意見を書こうと思います。
フレーム補完技術と自動中割りは恐らく全く別物である
あくまでも、私は観る側の人間なので間違っている可能性もありますが、この研究で行われているのは「フレーム補完」であり、自動中割りと似て非なる技術だと思っています。
まず大前提として、使用している素材がおかしいです。
実際に使用されているのは「ずんだホライゾン」の「動画に仕上げ処理を行った素材」が使用されているようです。
一例をあげると、C175のB0020〜B0022が使われています。
一方、アニメ制作では、「原画(key frame)」→「動画(各frameの線画)」→「仕上げ」の手順であり、この仕上げ後の素材を使ったということになります。少なくともYouTubeの動画を見る限りはそうです。
つまり、
- この研究で使用されている入力の各素材間の中割りは「アニメ制作において制作されないもの」である
- 仕上げ済みを入力にし、仕上げ済みの中割りを出力した場合、修正しなければいけない箇所は「通常よりも手間がかかる可能性がある」
ということになり、とても実用に耐える物ではないように思います。
どちらかというとTVについているフレーム補完機能に近いものになっているように感じました。
等間隔で中割りされる物とは限らない
他にもあります。
原画にはツメ指示と呼ばれる指定が書かれます。
そして、実際に作成された原画や動画が、どの間隔で表示されるべきかはタイムシートで指定されます。
その為、単純に原画間を三等分して補完すれば良いものでもありませんし、そうしてしまうとメリハリのない絵になってしまうはずです。
3Dアニメでも、日本のアニメのメリハリの効いた動きを損なわないように、タメツメを意識しているという記事が散見されるぐらいです。
例えば、『プリキュアのEDダンス変遷の陰にあるアニメ会社のCG表現への飽くなき探求』においても「タメツメ」という単語が出てきます。
それだけ意識されていることが満たされない状況での実用化は難しいでしょう。
既に実用化されている物について
さて話は大分変わりますが、アニメxAIは既に実用化されているものがいくつかあります。
- Preferred Networksがアニメ映画「あした世界が終わるとしても」に技術提供 ── キャラクターデザインと群衆の動きに活用
- 「原画の絵をそのまま画面に出す」という「フリクリ プログレ」第5話でのシグナル・エムディの取り組みとは
- アニメ制作ソフト「CACANi(カカーニ)」の日本総代理店に!
~シンガポールCACANi社、デイヴィッドプロダクション社とパートナーシップ~
- 「はたらく細胞」などdavid production制作のアニメでクレジットされています
PFN(Preferred Networks)のは、近景だとまだ違和感がありましたが、遠景だとかなり自然な出来上がりに見えました。
ドワンゴの時季ヶ原姉弟のうち、原画トレスは以下のツイートにあるように、中々良さそうです。
AI動画の率直な感想は「原画トレス」は実用レベル。「中割り」はこれから、という印象です。
— ちゃう (@chau_kotori) 2018年9月26日
原画トレスが実用レベルという事は動画さんは「原トレをAIに任せて単価も貰う」事で今の料金体系で新人動画マンによりお金が行くようになります。
反面、AIにさせた分は支払われない可能性もあります。
CACANiはクレジットは確認していますが、実際にどこで使用されているのかはイマイチ分かりませんが、比較的前からあります。
さて、思った事を長々と書いてしまいました。
間違っている箇所がありましたら、Twitterやコメントなどでご指摘ください。
こういった技術が使われることで、より作家性に飛んだアニメ作品が世に出てくることを陰ながら願っています。
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